LOGIN数日後、王宮にある応接室。
そこで俺は立ってある人物を待っていた。 侍女を通じて、やってくるように伝えている。「失礼いたしますわ」
やってきたのはユリアナ嬢。
礼をしながら応接室に入ってくる。 いつもと変わらない表情をしていて、何も不安に思っていない。「来てくれてありがとう。時間は取らせない」
「殿下、どういった用件でしょうか?」
一呼吸置いて、伝えることにする。
「君との婚約を、ここで解消したい」
「……っ!」
ユリアナ嬢は驚いた表情をしていた。
確かにそうなるよな。 でも取り乱すこともなく、ただ考えているようだった。「理由を、お聞きしても?」
次に彼女が口にした事は理由を訊ねるもの。
彼女には心当たりが無いようだ。 俺は彼女に視線を合わせず、書類を差し出す。 それは、婚約を解消する旨を書いたもの。 これによって、完全に俺とユリアナ嬢は婚約を解消することになる。「理由か。これは、君のためだ」
「わたくしのため?」
きょとんとしている。
「君は、正しい王妃になる人だ」
それは間違っていないと思う。
ユリアナ嬢と結婚すれば、彼女は正しい王妃になれるだろう。「だが、俺にはそれを受け止めきれなかった。それ以上の説明は、出来ない」
俺は謝罪をせず、ただ理由を伝えていく。
それを感情もぶつけずにユリアナ嬢は聞いていた。 言葉を遮らず、ただ淡々と。 俺の言葉が終わると、ユリアナ嬢が口を開く。「わたくしが、殿下のお役に立てなかったのでしょうか?」
「いや。何も」
その問いかけに対して、俺は間を置かずに答えていく。
即答と言ってもいいくらいに。 確かに彼女は悪くない。 役に立っている。立てなかったことはない。「これまでの尽力に、感謝している」
俺はユリアナ嬢に一礼をして出ていこうとする。
彼女は俺に縋るわけでもなく、ただ俺を見ていた。「必要な手続きは、後日こちらで行う」
「分かりましたわ、殿下」
彼女は泣くことはなく、怒るわけでもなく、俺に対して一礼を返した。
姿勢は正しく、王太子の婚約者としては相応しいように思える。 だが、少なくとも今の俺には受け入れられなかった。 俺は応接室を出ていく。この時点で、俺とユリアナ嬢の婚約関係は終わったのだった。
「何故なんだろう。どうして心は晴れないんだ」
応接室を出ていった後、心は曇ったままだった。
雲が消えていって、青空になるはずなのに。 開放感が訪れないなんて。 しかも強い喪失感が起きている。 ぽっかりと空いた穴。 そこに埋められるものが見つからない。 大切なものを失ってしまったみたいだ。 失った理由は、まだ分からない。 ただ、もう取り戻せないことだけは、分かっていた。「何だろうな。すっきりしない」
心の中でもやもやしている。
ユリアナ嬢と婚約解消して、落ち着けるはずだったのに。 何か間違ったのだろうか。 迷ってはいないはずなのに。「殿下、どうしましたか?」
王宮内を歩いていると、クレア嬢と出会った。
俺の様子を見て、心配そうに見ている。「いや何でもない」
「……そうは見えませんが」
心配かけさせまいとするが、クレア嬢にはお見通しだった。
やっぱり分かるよな。「実はユリアナ嬢と婚約解消をしたんだが、何も満たされないんだ」
仕方ない。
ここは正直に事情を言おう。「そうでしたか」
クレア嬢はそれを聞いて、少し俯きながら悲しそうな表情をしていた。
もしかしたら、解消したことがショックなのだろうか。「お辛かったのですね」
それでも彼女は俺を慰めようとしていた。
察しながらも、柔らかい微笑みを見せて。「……ああ」
「大丈夫です。今は様々な感情が混ざっているだけです」
クレア嬢は一瞬ためらってから、そっと距離を保ったまま言葉を掛けていく。
「そうなのか……?」
少し楽になって、心が落ち着くような感じになる。
「はい。ですから、今は無理をなさらずに休んでください」
「ありがとう。すまなかった」
こんな時でも寄り添ってくれるなんて。
ただそれでも、完全には心は埋まっていない。「いえ。変なことは考えないでくださいね」
「そうだな」
俺は今日の公務を済ませながら、部屋へと戻っていく。
今度、彼女にお礼をしないとな。「上手くいかなかったな……」
そして今、王宮に帰る途中、さらに雨脚は強くなっていた。
だが俺は馬車の中だったのもあって、濡れることは無い。 馬車で来て良かったな。 俺は馬車の中で椅子に座って、考えてみることにした。 揺れる車内、それでも考える余裕は充分にある。「……ああ、失敗した」
ユリアナ嬢は謝罪を受け取らなかった。
拒絶して、『帰りなさい』って言われた。「だが、謝罪そのものが間違っていたわけじゃない」
”謝罪は不要”って言われたわけじゃない。
受け取る準備はユリアナ嬢にもあった。 俺の準備が悪かっただけ。『はっきりとわたくしに理由をお伝えください』
ユリアナ嬢はそう言っていた。
だから受け取ってくれなかったのは、そこにある。「問題は、説明不足だ、と思った」
理由をちゃんと伝えられなかった。
それが敗因。 誰だって理由が分からなかったら、困惑する。「つまりーー説明すればいい、はずだ」
ちゃんとユリアナ嬢に説明すれば、受け取ってもらえる。
そうすれば、完璧なはずだ。 俺はそう信じるしかなかった。 馬車は王宮に着いて、そのまま中に入っていく。「殿下、お帰りなさいませ」
王宮に入ると、作業補助をしているクレア嬢と出会った。
彼女は長い間、王宮での仕事をしている。 ある程度は信頼が出来る。「出迎え、ありがとう」
軽く感謝して王宮内を歩いていく。
「顔色があまりよくありませんね」
彼女は俺を見て、そう優しく言い表していた。
そう見えるのか。 確かにな、謝罪が上手くいかなかったから。「謝罪が上手くいかなかったんだ」
クレア嬢は俺がどこへ何をしたのか知らない。
簡単に結果だけを伝えた。「あまり誠意を伝えられなかった」
「そんなことはありません」
だがそれでも、クレア嬢は穏やかな微笑みを見せながら話していく。
俺を庇ってくれるんだな。「殿下は、誠意を尽くされたのだと思います」
確かにそうだ。
誠意は尽くした。 説明をちゃんと出来なかっただだ。(少なくとも、間違っていなかったと、思いたかった)
「だから元気出してください」
クレア嬢は微笑みのまま、俺を励まそうとしてくれた。
そうだな。倫理的に問題ない。「ありがとう」
彼女に感謝する。
それからクレア嬢と別れて、俺は自室へ。 椅子に座って、気持ちを落ち着かせる。 少ししたら侍女のレーナ・ニコシアが部屋に入ってきて、紅茶を置いた。「殿下、お疲れ様でした」
レーナが笑みを見せている。
「ああ」
「謝罪に行かれたって話を聞きましたが」
やはりさっきの状況を聞いていたのだろうか。
確かに、他の人物だっていたからな。 聞こえるのも仕方ない。「そうだ。ユリアナ嬢とな」
「ユリアナ様、ですか」
レーナは考えながら、考え事をしていた。
「彼女は、理由を求めていた」
自室だからというのもあるだろう。
より、レーナには詳しく話していく。「なら、理由を説明すればいい」
「あの殿下、理由とは……?」
慎重な感じでレーナは訊いていた。
「俺は、彼女のためだと思っていた」
はっきりと、言い放つ。
ユリアナ嬢は間違っていないからな。「…………」
するとレーナは沈黙してしまった。
どうしたんだろうな。「あの、それは……殿下のお気持ち、ですよね?」
「そうだな」
勿論だ。
俺が弱く、彼女が正しかった。 彼女のためだと思っていた。 だから、身を引いた。 それが間違っていた。「犠牲だと、そう言い聞かせていた」
「殿下、それをそのままお伝えするおつもりなのですか?」
「当然だ。誠実だからな」
間違っていない。
それしか言葉に出来なかったから。「殿下、それは……”犠牲”ではありません。選択です、殿下ご自身の」
眉をひそませながら、レーナは話していく。
「おそらく倫理だろう」
俺は倫理だと思わなければ、立っていられなかった。
「倫理に見えませんが」
小さい声だが、はっきりとしたものをレーナは伝えてくる。
いや、合っている。「もう一度、謝罪に行く」
決めた。
ユリアナ嬢から許してもらうためには、こうするしかない。「またでしょうか?」
「今度は、理由を説明する。前回より、完璧だ」
言葉が抽象的すぎたからな。
だからはっきりとしたものがいい。「次は失敗しないからな」
理由もあるし、覚悟もある。
今度こそ完璧だ。 タイミングさえ間違えなければいい。なお、その理由はーーユリアナ嬢の逆鱗を、正確に撫でる内容だった。
「お嬢様は戻りました」 そう言われるまで、俺は土下座をしたまま。 既に謝罪をする相手は、居なくなっている。 だから頭を上げてゆっくりと立ち上がる。「出口までご案内いたします」 使用人に案内されて、屋敷の外へ。 屋敷の雰囲気が冷たく感じた。 丁寧だが、最初に来たときよりも距離があった。 出ると、扉は静かに閉じられる。 だが音が重かった。(終わった、のか?) 屋敷を出たタイミングでも、その実感がまだ起こらなかった。 拒絶された実感すらない。 それは、『帰りなさい』や『お引き取りを』って言われず、使用人にも物理的な行動をされず、追い返されなかったのもあるが。 扉から門へと向かっていく庭の間にある道。 太陽は完全に昇っていて、空は水色に染まっている。橙色は少ない。(謝罪、受け取ってもらえなかった) ユリアナ嬢の言葉が、ゆっくりと頭の中で反響する。 『殿下は、わたくしに謝りに来たのではありませんわ』 『”安心したい”だけですわ』 『殿下、わたくしは”二度と捨てられない未来”を約束できない方とは、関われません』 はっきりと、俺に突きつけた言葉。 正論であるが、ある意味断罪するような、冷たいもの。 でもそれだけ婚約破棄によって、ユリアナ嬢を傷つけた事になる。 明らかに俺が間違っていた。 時が戻れるなら、婚約破棄直前で俺を殴りたい。(俺は、許される前提で来ていた) 土下座をして、前世の事だけじゃなくて、全部を話した。 それで許されて、戻れると思っていた。 ゲームと同じような世界だから。 パワーの強い行動をすれば、ゴリ押せると。 でも結果は違っていた。 俺がしていたのは、謝罪ではなく、回復魔法。 壊れてしまった関係すらも戻せるような、ありもしない回復魔法唱えていた。 だからこそ、『謝ったから戻る
【ユリアナ視点】 この日、夜明け後にわたくしへ使用人のサルチャクから報告があった。 まだベッドで起きてすぐに。「殿下がお見えです」 朝早くから? そして報告したサルチャクは、諦めているような目をして疲労を見せていた。 ただ、わたくしにとっては驚きもしなかった。(やはり来ましたのね) それだけの感情。 もう一度来るって事は予想できた。 先日の謝罪、殿下は頭を床につけて謝罪の言葉だけを伝えた。 跪いて、わたくしに許しを請《こ》うて。 明らかにおかしな状況。 しかも、何に対して謝罪をしようとしているのかを、何も言わず。 だからわたくしは、謝罪を受け入れられなかった。 婚約破棄に関する事かもしれない。 でも、それならば言ってほしかった。 理由も訊きたかったから。 謝罪だとすれば、今日は言ってくれるのだろうか。「通しなさい。でも客間とは違う場所に」 わたくしはそうサルチャクに伝えた。「かしこまりました」 寝間着から着替えて、殿下が通されたであろう部屋に行ってみる。 殿下が通されたのは小さいながらも庭がよく見える部屋で、わたくしにとってはお気に入りだったりする。 彼はどんな言葉をわたくしに言うのだろうか。 そう思いながら部屋に。 部屋に入ってみると、そこには既に先日を同じような体勢を取った殿下が。「殿下」 わたくしは元婚約者でありながらも、冷たく淡々と言葉を話していく。 そして近くにある椅子に座って、話を聞くことにした。「また謝罪ですのね」「俺は君のために婚約破棄をした。だが、それが正しかったのか分からなくなった」 やはり謝罪は、婚約破棄に関することですのね。 分からなくなったって。迷っているじゃないの。 だからこそ謝っているのだろうけれど、なら婚約破棄する前に、気づかなかったのかしら。 私は何も言わずに聞いていく。 すると、殿下は前世に関することを話していた。 前世ーー伝承等《でんしょうとう》で見聞きしたことがある。 別世界の人物が転生することがあると。 本当にあるのね。 しかも、殿下がその人物だなんて。 わたくしはそれでも驚きを見せず、ただ聞くだけ。 ”推し”って分からないけれど、前世ではわたくしを好いていたのね。 確かにわたくしも
【ユリアナ視点】「……殿下」 |あの時《婚約破棄の日》、殿下が出ていって、扉が閉まった。 静かだったけれども、今までよりも冷たかった。 足音は遠ざかっていく。 わたくしは追いかけることもせずに、応接室で立ったまま。 遠ざかっていくと、応接室には静寂が訪れる。 聞こえるとすれば廊下を歩く侍女の足音くらいだろう。「本当なのね」 机の上に置かれた婚約破棄の書類を見てみる。 はっきりと、レオポルド殿下とわたくし”ユリアナ・フォン・ルイッツホーフ”が婚約を解消する旨を書かれている。 殿下の署名もあるし、王家の印もあってこれが正式書類だって分かる。 偽造なんてありえないくらいに。「本当に、終わったのね」 わたくしは殿下との婚約を破棄された。 その事実は、時間が経つにつれてはっきりとわたくしにのしかかる。 殿下の、『君のため』という言葉が、胸に刺さる。わたくしのため? それなら、なぜ理由を言わないの? わたくしは……ただ、選ばれたかっただけなのに。「どうしてなの?」 何が原因だったのかしら。 思い出そうとしても、心当たりがない。 いつから殿下は、わたくしとの婚約を破棄しようとしたのか。 そのきっかけって何だったの。 わたくしはその際に、何をしてしまったのか。 思考を巡らせながらその心当たりを探っていく。 でも、見当たらない。 何がいけなかったのだろうか。 気づかないうちにわたくしは殿下へ、粗相をしていたのか。 わたくしすらも知らない癖的な言動が、殿下を失望させてしまったのか。 もしかしたら、その時にわたくしが謝って態度を変えれば、婚約破棄にならなかったのだろうか。 考えれば考えるほど、問いだけが増えていく。 けれど、答えに繋がるものは一つも見つからなかった。「分かりませんわ」 思い出してみるけれども、失言はしていないはず。 言動には気をつけていたはず。癖で出ていたであろうものも含めて。 婚約者として、殿下を支えていたはず。職務的なのも積極的に行っていた。 なのに、どうして。 ”王太子なのに”とか、”王太子失格ですわ”といった事を言って、殿下を否定した覚えがない。「……何も思い当たらない」 だから、さっき殿下が言っていた事を思い出す。 『君のためだ』
「う~ん」 俺は悩みながら、王宮の廊下を歩いていた。 あれ、何か新鮮だな、この廊下を歩くのも。理由は分からないが。「それにしても」 ずっと歩いているのが新鮮に感じてしまう事、に関してはどっちでもいい。 今の状態としては、別の事で悩み中だ。「ユリアナ嬢、許してくれるかな」 二度目の土下座をしたいが、いつにするかを決めかねていた。 すぐにユリアナ嬢の屋敷へ向かっては、呆れられるだけだろう。 だから、多少は時間を置いて謝罪をしたほうがいい。 でも、どのタイミングで? それが一番の悩みだ。 顎に手を当てながら考えていた。「殿下、何か悩まれているのでしょうか?」「すまない。変なところを見られてしまって」 クレア嬢が俺の様子を見て、微笑みながら優しく話しかけてきた。 しまったな。 彼女は当事者じゃないのに。 俺とユリアナ嬢の問題だからな。「もしかして、ユリアナ様の事でしょうか?」 分かるのか。 確かに先日、婚約破棄したことを伝えている。 だから察しがつくだろうな。「ああ。婚約破棄してから、冷静になってみたんだ。そうしたら、間違いだって思うようになってな」 そのため、俺は表面上であるがクレア嬢にユリアナ嬢への気持ちを伝える。「ま、間違いですか」 そう口にしながら、クレア嬢は一瞬だけ視線を落とした。 まるで、答えが分かっていたのに、聞いてしまったかのように。「謝罪をしたんだが、受け入れてもらえなかった」「せ、先日のってそれですか……」「ああ、そうだ」「ゆ、ユリアナ様と……」 クレア嬢の目が一瞬、悲しげに揺れた。彼女も、何かを知っているような……? それに言葉が震えまくっている。 何が起きているんだ。「大丈夫か?」「は、はい」 落ち着かないな。 さっきまでは平常だったのに。 悪いことでも言ってしまったのか?「もしも再び謝罪をするなら、いつが良いだろうか?」「そうですね。すぐでもいけませんし、時間が空きすぎてもいけませんので、数日後がいいかと」 数日後か。 確かにそれが良いかもしれない。 やがてクレア嬢の様子は、完全ではないものの徐々に落ち着いていって、普通に話していた。「ありがとう」「……殿下の謝罪が上手くいくといいですね」 ぎこちない微笑みを見せながら
数日後、王宮にある応接室。 そこで俺は立ってある人物を待っていた。 侍女を通じて、やってくるように伝えている。「失礼いたしますわ」 やってきたのはユリアナ嬢。 礼をしながら応接室に入ってくる。 いつもと変わらない表情をしていて、何も不安に思っていない。「来てくれてありがとう。時間は取らせない」「殿下、どういった用件でしょうか?」 一呼吸置いて、伝えることにする。「君との婚約を、ここで解消したい」「……っ!」 ユリアナ嬢は驚いた表情をしていた。 確かにそうなるよな。 でも取り乱すこともなく、ただ考えているようだった。「理由を、お聞きしても?」 次に彼女が口にした事は理由を訊ねるもの。 彼女には心当たりが無いようだ。 俺は彼女に視線を合わせず、書類を差し出す。 それは、婚約を解消する旨を書いたもの。 これによって、完全に俺とユリアナ嬢は婚約を解消することになる。「理由か。これは、君のためだ」「わたくしのため?」 きょとんとしている。「君は、正しい王妃になる人だ」 それは間違っていないと思う。 ユリアナ嬢と結婚すれば、彼女は正しい王妃になれるだろう。「だが、俺にはそれを受け止めきれなかった。それ以上の説明は、出来ない」 俺は謝罪をせず、ただ理由を伝えていく。 それを感情もぶつけずにユリアナ嬢は聞いていた。 言葉を遮らず、ただ淡々と。 俺の言葉が終わると、ユリアナ嬢が口を開く。「わたくしが、殿下のお役に立てなかったのでしょうか?」「いや。何も」 その問いかけに対して、俺は間を置かずに答えていく。 即答と言ってもいいくらいに。 確かに彼女は悪くない。 役に立っている。立てなかったことはない。「これまでの尽力に、感謝している」 俺はユリアナ嬢に一礼をして出ていこうとする。 彼女は俺に縋るわけでもなく、ただ俺を見ていた。「必要な手続きは、後日こちらで行う」「分かりましたわ、殿下」 彼女は泣くことはなく、怒るわけでもなく、俺に対して一礼を返した。 姿勢は正しく、王太子の婚約者としては相応しいように思える。 だが、少なくとも今の俺には受け入れられなかった。 俺は応接室を出ていく。 この時点で、俺とユリアナ嬢の婚約関係は終わったのだった。「何故なん
時間は数週間前に戻る。 いつものように公務が忙しかった。「この部分だが、君はどう思う?」 俺は王都にあるシュナイエ王国の王宮において、青髪の子爵令嬢《ししゃくれいじょう》のクレア・ユングホルツ嬢に意見を求めた。 資料の確認をするためだ。「私は、殿下のご判断が最善だと思います」「そうか」 クレア嬢は決断をしなかった。 俺の判断が正しいと言ってくれた。 その途端に、肩の力が抜ける。「君の意見で確信が持てた。ありがとう」「いえ、殿下の考えは正しいですから。あなたは王太子ですので」「王太子、か。確かにな」 俺はちょっとクレア嬢に笑みを見せる。 すると彼女も微笑み返した。「ふふ、そういったところ、魅力的です」「そう言ってくれると嬉しい」 クレア嬢は肯定的に捉えてくれる。 それが俺の心を惹きつけた。 婚約者がいるのにな。 クレア嬢は、迷うことそのものを否定しなかった。 それが、俺にはありがたかった。「そうだよな」 俺は彼女に対して、そう呟いた。 だからこそ、意見を訊くんだよな。(俺だって迷うよな)「クレア嬢、ちょっと良いだろうか?」 何日かして、彼女に意見を求めた。 ちょっと遠慮がちに。「迷われていますのね」「ああ」 彼女は俺の様子を察して、優しく微笑んでいた。 少々安心する。「俺だってただの人間だからな」 先日クレア嬢に言ってくれた事を返した。「勿論ですよ。迷われるのは、真剣だからだと思います」 クレア嬢は頷きながら俺の事を肯定してくれる。「私としてはーー」 そして意見を言ってくれた。 俺は楽になった気持ちになる。「ありがとう。つっかえていたものが取れた気分だよ」「ふふ、そんな所が私はお好きですよ」 笑顔を見せてくれるクレア嬢。 水が流れるように、俺は楽な方向へ心が向いていく。「君は縛らないな」「そんな。私はただ、殿下を尊敬しているだけです」 彼女がそう言ってくれる事に心が温かくなる。「あのレオポルド殿下、お疲れではありませんか?」 少し経って、業務が終わったタイミング。 そこでクレア嬢は話しかけてきた。「疲れか。そう見えるのか?」「はい」 俺では気づかなかったが。 彼女は気がつくのか。 確かに自分の事を気づきにくいってよく言われるが







